ドイツの拳銃メーカーとしてよく知られた「カール.ワルサー」銃器会社製で1928年にドイツ国防軍制式信号拳銃に採用されていた中折式26.65mm滑空銃身のワルサー信号拳銃は戦前15万挺も生産され、陸海空軍に装備されていた。そしてドイツでは新しい試みとして、この信号拳銃を利用して、柄付き手榴弾M24の頭部や、卵型手榴弾M39も拳銃から発射できるように実用化した。この拳銃榴弾は投擲距離で小銃用榴弾には及ばないが、人力で投擲する手榴弾よりも命中が確実で市街戦闘などの近接には手ごろな歩兵用火器となった。一般の信号弾は、用心鉄を兼ねたレバーを前方に押し出して中折れ式の銃身を解放し、散弾銃と同様に信号弾を後方から薬室に装填したが、柄付き榴弾の場合は、薬莢と柄付き弾体をいったん分離して前方からはめ込み発射した。当時各国では小銃用榴弾が研究開発されていたが、信号拳銃から榴弾を発射すると言うアイデアには到っていなかった。第二次大戦が開始されて間も無い1940年、ドイツ陸軍はワルサー社に対して、対人対車輌用の小型榴弾を発射できる大口径拳銃の要求を出した。これに応じて同社は従来型の信号拳銃の銃身に5本のライフリングを切り、26mmの特殊な専用小型榴弾を発射できるように改良した。射程距離は自動拳銃より短かったがなんと言っても小27mm小型榴弾を発射できることは近接戦闘で極めて有利であり僅か1発で機関銃座を破壊することも可能であった。この新型信号拳銃は「Kamp-pistole」と名ずけられ、一般の信号拳銃と区別するために、銃身左にZと刻印されて蛍光塗料が中に塗られているのでZピストルとも言われた。カンプピストルに採用された小型榴弾M361は弾体外周に銃膣内のライフリングに合致する斜めの凸起があり、これが発射されるとライフリングに噛み合わされて旋転運動をともない、命中精度を望めるものであった。この方式は現在でも無反動砲に採用されている。そして間もなく、ホロチャージ式の成形炸薬弾が実用化されると、カンプピストルにも応用され、ここに世界最初の対戦車拳銃がドイツ陸軍の手によって完成したのであった。この対戦車榴弾M361は1942年に誕生したものでアルミ製薬莢に27mm成形弾を組み合わせたものであったが、実際当時の対戦車攻撃兵器としては威力が不足しており、期待通りの活躍をしたとは言いがたいが対車輌兵器としてひき続き使用された。また榴弾としてもう1種類あり、ライフリングに合わせた旋転用凸起が無く4枚のフィンによって弾道を安定させるもので、M326と呼ばれていた。 |